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漆のはなし

漆かき

天然のヒノキやアテ(あすなろ)の無垢を使った木地、そして、ウルシの樹液である漆。輪島塗りは、森の恵みともいえます。ウルシは、古くから日本に伝わり各地で栽培されてきました。樹皮にキズをつけると、そのキズをふさぐためウルシは独特な樹液を出します。その樹液を集めることを「漆かき」といいますが、植えてから10年から15年たち、10メートルほどに成長したウルシから何回かに分けて採取します。季節は6月から10月ぐらいまで。この季節や木の個性、生育場所などによって、漆の質は異なってきます。1本の木から採れる樹液はおよそ150gほど。椀にして数個分しか採れません。また、樹液を採り終わったウルシは切り倒してしまいます。漆は、長い時間と経験に裏打ちされた技術から生まれる、とても貴重な素材なのです。

漆の質

漆は、採った場所や時期、採り方によって質が異なります。ウルシの木から採ったままの漆は、荒味といい、それを濾過したものが生漆です。もちろんそのままでも下地づくりなどに使われますが、固まると褐色になってしまうため、仕上げの上塗りに使うためには精製・加工が必要になります。この作業が「くろめ」や「なやし」と呼ばれているものです。生漆に熱を加えることなどで水分量を減らし、粘度を高めて塗りやすくしたり、つやのある仕上がりとなるように調整します。当然、この作業によっても漆の質は異なってきます。漆かきから精製まで、漆そのものにも熟練したさまざまな職人の技が活きているのです。

漆の色、漆のつや

漆は、その原料や質に応じて「梨子地漆」「朱合漆」「呂色漆」など、さまざまに分類されます。それぞれの性質に合わせて使い分けられますが、これらに塗り方の技法を組み合わせることで、漆器は実に多彩な表情を持つようになります。また、漆に顔料などを混ぜることで色漆をつくります。代表的なものは朱と黒。朱といっても混ぜるものによってまさに多彩となり、あざやかな赤口(あかくち)、オレンジに近い洗朱(あらいしゅ)、その中間の淡口(あわくち)、重厚感のある本朱(ほんしゅ)、茶色みを帯びた紅柄(べんがら)などがあります。また、漆の黒は「漆黒」という言葉があるように、最高の黒とされています。この他、白や緑の色漆もあります。

漆の黒

黒漆は、昔はすすなどからつくる黒い顔料を入れてつくられていました。しかし、安土桃山から江戸にかけての頃、漆に鉄を入れると黒くなることが発見されました。ウルシオールが鉄と反応し、それによって漆そのものに真っ黒な色がつくのです。現在の黒漆は、その反応を利用しています。しかし、精製してしまった漆に鉄を加えても、濃い黒にはなりません。水分が含まれていた方が、鉄とウルシオールの反応が進みやすいからです。そこで生漆に鉄粉を加え、「くろめ」や「なやし」作業を行います。「漆黒」という言葉にふさわしい深みやつや、味わい、そして独特の耐久力。経験と工夫を重ねた漆の技は、もはや科学と呼べるかも知れません。